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活動方針(2010年度~2011年度)

新しい段階を迎えた地域研究コンソーシアム
――2010年度~2011年度活動方針・計画

運営委員長 山本博之

 

 2004年に設立された地域研究コンソーシアム(JCAS)は、運営に携わった多くの人にとって、組織を越えた共同事業という未経験の試みの連続でした。予算の使い方を見ても、旧国立大学と私立大学とで決まりや慣行が異なり、共催シンポジウムを実施した際に互いの常識が相手に通じず、行き違いに戸惑うこともしばしばありました。
 3期6年にわたる運営を通じて、昨年度までに運営の基本的な枠組みがほぼできあがりました。約90にのぼる加盟組織から選ばれた12の幹事組織を基盤として、理事会、運営委員会、事務局が組織され、日常的な活動は運営委員会に置かれた部会や研究会が担当しています。その活動内容は、加盟組織が一堂に会する年次集会およびシンポジウム、次世代研究者による研究企画の支援、和文学術雑誌『地域研究』の編集・刊行、ウェブサイト、メールマガジン、ニューズレターによる地域研究関連情報の共有と発信、地域研究の最先端を切り拓く4つの研究会(社会連携、情報資源共有化、地域情報学、地域研究方法論)、そしてそれらの活動を支える事務局から構成されています。
 そして今年度、JCASは新しい段階を迎えました。運営に携わる幹事組織の間で信頼・協力関係を醸成する段階を経て、幹事組織以外の加盟組織を広く巻き込みJCASのネットワークを活用して共同や連携を進めていく段階です。そのため、今年度からは、次世代研究者を支援する公募研究を拡充するとともに、より多くの加盟組織が参加できるような公募メニューを増やします。また、共同研究の成果を社会に向けて積極的に発信するとともに、コンソーシアム賞の設立の準備を進めます。
 以上の基本的な考えに基づき、今年度のJCASでは次の5つの分野に活動の重点を置きます。

 1.地域研究の設計
 2.共同研究の推進
 3.学界との連携
 4.社会への還元
 5.活動内容の発信

1.地域研究の設計

 地域研究は、対象、分野、手法がさまざまに異なる研究者が集まる学問分野です。そのことを反映して、JCASには実に多様な組織や人が集まっています。この加盟組織の多様性を活かし、地域研究に関連する素材や資源を束ねることにより、地域研究の現在の姿と将来の可能性が自ずと浮き彫りになるはずです。
 大学や研究所等の組織に分散して所蔵されている地域研究の多様な情報資源を共有化し、また、情報資源の共有化を通じて新しい地域研究の手法を切り拓くため、JCASは情報資源共有化研究会と地域情報学研究会の2つの研究会によって研究を進めてきました。今年度より、この2つの研究会を統合して情報資源部会とし、地域研究情報資源の共有化から研究への応用までを1つの流れで捉え、これによって「地域の知」へのアプローチを試みます。
 地域研究には多様な分野や方法を身に付けた研究者が集まっており、地域研究として明示的に確立された方法論があるわけではありません。地域研究方法論研究会では、JCASの加盟組織を訪れる「巡回研究会」を通じて、研究や教育の現場で地域研究がどのように理解されているかを知り、「文理融合」「社会連携」「ヨーロッパの地域研究」「地域情報学」などの角度から地域研究の方法を提示することを目指しています。

2.共同研究の推進

  毎年11月頃に行われる年次集会は、JCASの加盟組織が一堂に会する機会であり、年次集会にあわせてシンポジウムを実施しています。今年度は、日本学術会議の報告書『地域研究分野の展望』へのJCASの応答がシンポジウムのテーマです。
 また、JCASでは、大学院博士課程在籍者から助教までの研究者を次世代研究者と位置付け、次世代研究者のイニシアティブによる研究企画を支援する「次世代支援プログラム」を行っています。採択された企画は地域研究次世代ワークショップとして実施されます。
 さらに、加盟組織を横断した研究企画を促進するため、今年度から新規に「共同企画研究」プログラムを実施します。共同企画プログラムは、JCASの加盟組織どうしが共同で企画実施する研究企画に対する支援です。今年度は、愛知大学国際中国学研究センター、京都大学東南アジア研究所、東南アジア学会の共同企画により、共同研究シンポジウム「ASEAN・中国19億人市場の誕生とその衝撃」が実施されます。
 JCASでは、年次集会が行われる11月の第1週を「コンソーシアム・ウィーク」とし、年次集会の前後にJCASの関連シンポジウムを行っています。今年度のコンソーシアム・ウィークは以下の通りです。
  11月3日(祝) 共同企画シンポジウム「ASEAN・中国19億人市場の誕生とその衝撃」(愛知大学)
  11月5日(金) 方法論研究会シンポジウム「実践系学知としての地域研究」(上智大学)
  11月6日(土) 年次集会シンポジウム「日本学術会議『地域研究分野の展望』への応答」(上智大学)
  11月7日(日) 地域研究次世代ワークショップ「NGOの時代は終わったのか─成熟するアジアの市民社会と日本のNGOの未来」(上智大学)

3.学界との連携

  今日では多様な経歴や背景を持つ人々による研究活動が増えており、それに伴って学術研究における大学の位置付けが変化しつつあるとともに、自由意思で参加する学術団体である学会の重要性が高まっています。JCASでは、加盟組織の学会との協力連携関係を促進するため、今年度より「学会連携」の新規プログラムを実施します。学会連携プログラムでは、JCASのネットワークを利用して学会と学会あるいは学会とそれ以外の組織が共同で企画実施する研究企画を支援します。
 また、日本学術会議や地域研究連絡協議会などの学会の連合体との協力連携も進めていきます。今年度の年次集会シンポジウムでは、日本学術会議の地域研究委員会が2010年4月に作成した報告書『地域研究分屋の展望』に対するJCASの応答をテーマとしています。

4.社会への還元

  JCASでは、社会連携研究会を置き、地域研究の成果の社会への還元方法を模索してきました。社会連携研究会では、災害発生時の人道支援(緊急・復興支援)と地域研究の連携を中心的な課題として取り組んできました。人道支援団体による初動調査や事後評価にJCASが紹介した地域研究者が同行するなどの活動は、人道支援業界からも高い評価を得ています。今年度より社会連携研究会を社会連携部会とし、これまでに築いた人道支援の実務者とのネットワークを活かしていっそうの連携を進めるとともに、それ以外の業種や分野での社会連携についても検討していきます。
 研究成果の社会還元を促進するため、今年度から「共同企画講座」と「オンデマンド・セミナー」の2つの新規プログラムを実施しています。「共同企画講座」は、特定のテーマについてJCASが最先端の講師陣を選び、要望のある大学等で「出張講義」を行います。大学間の単位互換では学生が大学の枠を越えて動くのに対し、「共同企画講座」では講師陣が大学の枠を越えて動きます。今年度は「地域文化研究から見る災害と復興支援」をテーマに、東京大学駒場キャンパスで出張講義を行います。
 「オンデマンド・セミナー」は、JCASに集まる地域研究者の専門家のなかから単発のセミナーや講演会に講師を紹介します。すでに田中耕司氏、毛里和子氏、油井大三郎氏をはじめとする多くの専門家が登録されています。シニア研究者の知識や経験を必要とする人々に届けたり、現地に長期滞在して特定地域の事情を熟知した研究者を人道支援団体や民間企業に紹介したりするなど、大学の枠にとらわれずに「地域の知」を伝える場を提供します。

5.活動内容の発信

 JCASウェブサイトの全面リニューアルを行い、全国各地に散らばる地域研究関連情報を体系的に収集し、イベント、出版、公募の3種類に分けて提供する地域研究関連情報のポータルサイトを実現しました。現在、加盟組織が持つ情報をJCASウェブサイトに効率的に集める方法の工夫を重ねています。また、このポータルサイトと連動させる形で、地域研究関連情報が掲載されたメールマガジン「JCAS News」を毎週配信しています。
 さらに、運営委員会に和文学術雑誌『地域研究』の編集委員会を置き、『地域研究』の編集・刊行を行っています。『地域研究』は一般書店で販売されており、研究成果を広く社会に発信する役割を担っています。また、ニューズレターでは、JCASや加盟組織による地域研究に関する最先端の試みを紹介しています。
このほか、多様な地域研究の担い手のなかから地域研究の発展に貢献した組織や個人を顕彰するコンソーシアム賞を設立し、2011年度からの実施に向けて準備を進めています。

 JCASでは、幹事組織だけでなく加盟組織が幅広く参加できるような運営を目指しています。加盟組織の方々には、運営委員会が提案する企画に積極的に応答していただくとともに、運営に対するご意見やご提案がありましたらぜひお聞かせください。